「すっぱい」と聞いただけで口がすぼまって、だ液が口の中に溢れてきそうです。
「酸味」はアーユルヴェーダでいう六味の1つで、全ての人にとってほんの少しだけでも毎食のなかに取り入れたい味です。ヴァータ体質の人は積極的に、カパ体質の人は少量、ピッタ体質の人はほんの少し、程度の差こそあれ、すべての健康を求める人に必要な味です。酸味の代表的なものといえばお酢や梅干、漬物・ヨーグルトなどの酸っぱい発酵食品、レモン・ライム・すだち・グレープフルーツ・パイナップル・キウイなど酸っぱい果物など。
最近は、甘いものは美味しいという一種の現代的な流行があって、あまり酸っぱいものは敬遠されがちです。特に小さい頃は酸っぱいものが苦手な人が多かったはずです。私もそうでした。酸っぱいイチゴには練乳をたっぷりかけて食べましたし、夏みかんはすっかり実をほぐしたものに砂糖をたっぷりかけて食べました。
酸味は健康のためにとるべき必要な味ではありますが、また腐って酸化すると酸っぱくなるというわけで、酸味は私たちに危険を知らせてくれる味でもあります。
「口や喉に焼けるような感じを与えれば、それは酸味であると知るべきである」とチャラカ・サンヒターには記載されています。だから酸っぱいものを口にするとだ液がドバッと溢れて、刺激を弱めようとするのかもしれません。赤ちゃんに酸っぱいものを食べさせると大げさすぎるほどに反応して顔をゆがめます。敏感な赤ちゃんの舌には酸味は強烈に焼けるような感じがして、危険な味と感じるのかもしれません。あるいは生まれたての赤ちゃんにはあまり必要な味ではないのかもしれません。しかし、成人になるにつれて酸味はそれほど刺激的ではなくなり、むしろ毎日少しは摂ったほうが健康にはいいと感じるようになるようです。
幸いなことに、和食にはたくさんの酸味の料理があります。その代表格が酢の物です。「きゅうりとわかめの酢の物」「たこときゅうりの酢の物」「とりのささ身ときゅうりのごま酢和え」など酢の物のバリエーションは実にさまざまです。お酢やワインにつけるマリネなどは若い人には好まれる料理です。鍋の美味しいこれからの季節は、ポン酢やレモンの絞り汁をかけていただくと何でも美味しく食べることができます。何となく食欲がないときなどに自然にまずお箸をつけるのは、酸っぱいものではありませんか? 酢の物やレモンなど酸っぱいものを始めに口にすると、意外に食欲が出てくることがあります。酸味・塩味・辛味はみな食欲を増し、消化をよくしてくれる味です。アーユルヴェーダでは、食事の 20 分前にスライスしたショウガに塩を少々とレモン汁を振りかけたものを食べるとよいと勧めます。これは酸っぱさとしょっぱさと辛さがほどよくミックスした、簡単で美味しい消化促進剤となります。
「酸味は食物をいっそう美味しくし、消化の火をあおり、身体を肥らせ、さわやかにさせ、意識を覚醒させ、感覚器官をしっかりさせ、体力を増進させ、ヴァータを下方に向かわせ、心臓を丈夫にし、口に唾液を生じさせ、食べたものを下方に運び、溶解させ、消化させ、満足感を与える。」
(チャラカ・サンヒター 1 ‐ 26 ‐ 43 )
昼間の眠気を解消するために酸っぱいものを食べることは効果があります。眠たくなると感覚器官の働きが鈍ってきます。酸っぱいものを口にすると感覚器官がシャキっとなり眠気も吹っ飛びます。また、便秘気味の人も酸味の食物が足りないのかもしれません。食べたものを下方に運ぶ働きをする酸味のものを少しは摂っているか、注意してみる必要がありそうです。
「初恋の味、カルピス」懐かしい響きです。初恋は滅多に成就しないもの。初恋の思い出は甘くて酸っぱい。若き日の幸福な思い出は甘く、心に残された傷痕は焼けるようにうずく、酸っぱさそのもの。しかし、また気弱になっている心を丈夫にして立ち直らせ、新たな人生をスタートさせる体力をつけるのも酸味…、か。
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